目次
概要
2014年の裁判です。
経緯は以下の通りです。
産婦人科で超音波検査を受けたところ、赤ちゃんの首の後ろにむくみが見つかりました。
首の後ろがむくんでいるということは、ダウン症の可能性があるということです。
そこで夫婦は、羊水検査による出生前診断を受けました。
夫婦は、出生前診断査の結果によっては人工妊娠中絶も考えていました。
診断結果は異常なしとA医師から告げられました。
(ここでA医師は、実はデータを見誤ったために診断結果を異常なしと伝えていました)
しかし、実際に生まれてきた子供はダウン症児でした。
出産予定日の3週間前、胎児が危険な状態にあるということから、緊急に帝王切開を行いました。
生まれた胎児は、ダウン症および多くの合併症を併発していました。
合併症は以下の通り
- 肺化膿症
- 無気肺
- 肝線維症
- 黄疸
- 腹水貯留
- など10以上の合併症
3か月後、胎児は死亡しました。
裁判の論点は2つあります。
「出生前診断の結果を誤って伝えられたため中絶を選択する機会が奪われた」と「中絶していれば子供の苦痛はなかった」です。
論点1「出生前診断の結果を誤って伝えられたため中絶を選択する機会が奪われた」
データを見誤ったことについて、A医師は過失を認めました。
その結果、裁判では1000万円の慰謝料が認められました。
慰謝料を認めた理由は以下の二つの機会を失ったというものです。
- ①妊娠を続けるか中絶するかの選択する機会
- ②妊娠を続けた場合、生まれてくる子に対する心の準備、養育の準備を行う機会
ここで問題があります。
本来、中絶は法律において以下の2つの場合にのみ認められています。
・妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
・暴行若しくは脅迫によってまたは抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの
本来であれば、ダウン症であるという理由で中絶することは法律上は許されていません。
実際は、身体的、経済的理由が拡大解釈されて中絶が行われているのが現状です。
A医師は、ダウン症の中絶は法律で認められていないので「①妊娠を続けるか中絶するかの選択する機会が奪われた」というのはおかしいと主張しました。
しかし、判決では「中絶の選択」が認められた形となりました。
論点2「中絶していれば子供の苦痛はなかった」
これは、「ロングフル・ライフ(不当な生活)訴訟」、「ロングフル・バース(不当な出産)訴訟」と呼ばれるものです。
「生まれない方が良かった」という考え方です。
- 子供が訴える場合(何で私を産んだの?)→「ロングフル・ライフ訴訟」
- 親が訴える場合(何で子供を産ませたの?)→「ロングフル・バース訴訟」
外国では良くある訴訟のようです。
判決は亡くなった子供に対する賠償は認められないというものでした。
出生前診断をしないとロングフル・バース訴訟で訴えられる可能性を指摘する国もあります。