今回は、ダウン症者の記憶の特徴から、ダウン症者に物事を覚えさせる一つの方法について述べたいと思います。
人間の記憶には、短期記憶、長期記憶があります。
短期記憶
外から情報を得たり、物事を理解したり、考えたりするときに情報を一時的に保持するための記憶のことです。
作業記憶とかワーキングメモリとも呼ばれます。
例えるなら仕事をするための作業机のようなものです。
仕事をする際、机にはマニュアルやメモ帳などを置くと思います。
作業机が広い程、同時に複数の仕事ができますが、机が狭いと1つの仕事しかできません。
この記憶は、短い時間しか保持されません。
長期記憶
長い期間保持されている記憶のことです。
役に立つ記憶は、長期間保持するために長期記憶に保管されます。
図書館のようなものに例えることが出来ます。
長期記憶に格納された記憶は必要な時に引き出すことが出来ます。
以前、ダウン症協会の玉井邦夫先生の講演会を聞いた際、ダウン症者など知的障がい者は、健常者と比べて短期記憶に問題を抱えることが多いと述べていました。
短期記憶を作業机に例えるとダウン症者の場合、作業机が狭いそうです。
そのため、同時に複数のことを行うことが苦手です。
また、長期記憶についても問題があります。
長期記憶には、大きくはエピソード記憶、意味記憶の2種類があります。
エピソード記憶
物語のようにストーリーで記憶することです。
例えば、今朝、8時に家を出て8時半に電車に乗ったなどの記憶はエピソード記憶です。
意味記憶
知識として覚える記憶のことです。
例えば、地球は太陽の周りを365日かけて回るなどです。
高度な思考処理を行うときは、エピソード記憶よりも意味記憶の方が処理能力が高いと言われています。
ダウン症者の長期記憶は、エピソード記憶に頼っていることが多いため、行動に特徴があります。
例えば、朝7時起床、7時半には朝食を食べて8時に外出するというエピソード記憶が根付いていると、このストーリーに行わいないと混乱するようです。
しかも、作業机(短期記憶)が狭いため別のエピソード記憶を同時に用意することが出来ません。
そのため、朝7時起床~8時外出のストーリーが終わらないと次に移れないことになります。
(これは一つ例えです。個々のダウン症児によってエピソード記憶は異なると思います)
ダウン症児が頑固と言われているのはこのためです。
延々とエピソード記憶を辿ろうしているときには、周りの状況を変えると断ち切る(リセット)することが出来るようです。
この特徴を理解すると物事を理解してもらうやり方も変わってくると思います。
例えば、なかなか自分でトイレに行けない子供であれば、授業時間の後の休憩時間には必ずトイレに行くようにするなどストーリーで覚えさせるというのも一つの方法ではないかと思います。
このようなエピソード記憶のパターンを多く作っておくと良いかもしれません。
なお、ここで説明した記憶モデルについては、次の玉井邦夫先生の書籍にも述べられています。
この書籍は、ダウン症に関する玉井邦夫先生の知見について書かれており、とても勉強になります。
一度は読んでおきたい書籍の一つです。